2025/06/03
犬の乳腺腫瘍は、特に避妊手術をしていないメス犬に多く発生する病気です。腫瘍と聞くと「がん」を思い浮かべて心配になる飼い主様もいらっしゃるかもしれません。しかし、乳腺腫瘍は早期発見と適切な予防によって、リスクを避けることができます。
今回は犬の乳腺腫瘍について、発症の原因や症状、診断・治療方法、避妊手術の重要性などをご紹介します。

■目次
1.乳腺腫瘍の基礎知識
2.乳腺腫瘍の発生率
3.症状
4.診断方法
5.治療選択肢と回復プロセス
6.ご自宅でのチェック方法
7.よくある質問
8.まとめ
乳腺腫瘍の基礎知識
犬の乳腺は、胸からお腹にかけて左右5個あり、合計10個の乳腺組織が並んでいます。この部分にできる腫瘍を「乳腺腫瘍」といい、犬の腫瘍の中でも発生頻度が高いとされています。
特に避妊手術をしていないメス犬では、ホルモンの影響により乳腺腫瘍の発症リスクが高まります。年齢的には7歳以上の中高齢の犬や、小型犬種(特にマルチーズやミニチュアシュナウザーなど)に多く見られるため、注意が必要です。
乳腺腫瘍の発生率
乳腺腫瘍は「良性」と「悪性」に分かれます。悪性腫瘍の場合、他の臓器への転移を起こしやすく、放置すると命に関わるため早期対応が非常に重要です。
また、以下の避妊手術のタイミングによって、乳腺腫瘍の発症率が異なります。
・初回発情前に避妊手術を行った場合:約0.5%
・1~2回発情後に手術した場合:約8%
・2回以上の発情後に手術した場合:約26%
このように、避妊手術のタイミングによって予防効果が大きく異なるため、避妊手術は早期に検討することが大切です。
症状
乳腺腫瘍は初期の段階では症状がほとんどなく、痛みを感じにくいため、飼い主様が気づくことが遅れてしまいます。多くの場合、乳腺に沿った部分にコリコリとした硬いしこりができ、それが次第に大きくなっていきます。進行すると、以下のような症状が見られます。
・しこりが赤く腫れる
・皮膚が破れて出血する
・乳頭から液体が出る
さらに悪化すると、呼吸が荒くなったり、元気や食欲が低下するなど、全身の症状が現れます。
診断方法
乳腺腫瘍が疑われる場合、動物病院では以下のような手順で診断を進めます。
①視診・触診
腫瘍の位置や大きさ、形、数、皮膚との癒着の有無などを確認します。見た目や触った感触から、悪性の疑いがあるかどうかを判断します。
②細胞診
細い針を使ってしこりの細胞を採取する「細胞診」を行い、良性か悪性かの初期判断をします。ただし、細胞診だけでは確定診断が難しい場合もあります。
③画像診断(X線検査・超音波検査)
腫瘍の広がりや、肺やリンパ節などへの転移の有無を調べます。特に悪性腫瘍は肺への転移が多いため、レントゲン検査は必須です。
④病理組織検査
腫瘍を外科的に摘出した後、その組織を専門の検査機関で詳しく調べます。腫瘍の種類や悪性度、転移の可能性などを正確に把握できる最も信頼性の高い検査です。
これらの検査を行い総合的に判断することで、治療方針が決定されます。また、乳腺腫瘍は早期発見で1センチ未満の腫瘍であれば、完治率は90%以上と非常に高いです。しかし、腫瘍が3センチを超えた場合、生存期間が大幅に短縮されるという報告もあるため、定期的なチェックと迅速な対応が愛犬の命を守る鍵となります。
治療選択肢と回復プロセス
乳腺腫瘍の治療の基本は外科手術です。腫瘍が小さく、単独で存在している場合は、しこりのみの切除で済むことがあります。一方で、複数の乳腺に腫瘍がある場合や、悪性腫瘍の可能性が高い場合には、片側の乳腺全体、場合によっては両側の乳腺を切除する必要があります。
<術後のケア方法>
手術後の回復をスムーズに進めるためには、以下のようなポイントに注意してケアを行うことが大切です。
・感染予防のため、2週間程度は安静に過ごす
・傷口のケアや抗生剤の投与を行う
・エリザベスカラーを使用し、傷口を保護する
・傷の経過観察と定期的な通院をする
また、悪性腫瘍であった場合は、手術後に抗がん剤治療を併用することもあります。再発や転移のリスクを軽減するために、獣医師と相談しながら治療方針を決めていきます。
ご自宅でのチェック方法
早期発見のためには、以下の手順で定期的にセルフチェックを行いましょう。
① 犬がリラックスしているタイミングを選びます。眠っている時や撫でている時など、自然に触れやすい時間帯が理想です。
② 犬を横向きまたは仰向けに寝かせ、安心させてあげましょう。
③ 指の腹を使って、胸からお腹にかけて乳腺に沿ってやさしく撫でます。
④ 硬くて動かないしこり、左右で明らかに違う部分、押しても嫌がらないが明らかに異物感のある部分などがないか確認します。
チェックを習慣化することで、腫瘍を早期に発見でき、治療の選択肢が広がります。ほかにも、定期的な健康診断も欠かせません。半年に一回は血液検査や画像診断を受け、健康状態をチェックしましょう。
犬と猫の健康診断について|受けるタイミングや診断方法の詳細はこちらから
よくある質問
Q:オス犬でも乳腺腫瘍になりますか?
A:はい、まれに発症することがあります。乳腺腫瘍はメス犬に多く見られる病気ですが、ホルモン異常などが原因でオス犬に発症する例も報告されています。ただしその頻度は非常に低いため、基本的にはメス犬が中心の疾患と考えられています。
Q:犬の避妊手術のベストなタイミングと乳腺腫瘍予防の関係は?
A:乳腺腫瘍の予防効果が最も高いのは、初回発情が来る前、つまり生後6か月前後の時期に避妊手術を行うことが有効です。発情を経験するたびに発症リスクが高まるため、早期の手術が強く推奨されます。また、避妊手術は乳腺腫瘍の予防だけでなく、他の疾患リスクも軽減できる重要な処置です。
まとめ
犬の乳腺腫瘍は、特に避妊手術を受けていないメス犬に多く見られる疾患で、放置すると命に関わることもあります。しかし、初期の段階で発見し、適切に治療を行えば、予後は良好で完治も期待できます。そのためには、日頃からスキンシップを通じて愛犬の体に触れる習慣をつけ、わずかな変化にもいち早く気づけるようにしておくことが大切です。
当院では、犬の避妊手術や乳腺腫瘍の実績が多数あり、それぞれの体調やライフステージに合わせた丁寧な診療を心がけています。初めての手術に不安を感じている飼い主様にも、わかりやすく丁寧にご説明し、安心してお任せいただけるようサポートいたします。
なにか分からないことや疑問などありましたら、お気軽にご相談ください。
<参考文献>
1 Schneider R, Dorn CR, Taylor DO. Factors influencing canine mammary cancer development and postsurgical survival. J Natl Cancer Inst. 1969 Dec;43(6):1249-61.
2 Shizu HASHIMOTO, Hozumi YAMAMURA, Tsuneo SATO, Kiichi KANAYAMA, Takeo SAKAI. Journal of Veterinary Epidemiology. Prevalence of Mammary Gland Tumor of Small Breed Dog in the Tokyo Metropolitan Area. 2002 Volume 6 Issue 2 Pages 85-91.
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