若い時の避妊手術でリスクを91%減少させる?|シニア猫に多発する乳腺腫瘍の全知識 - 小山レリーフ動物病院|栃木県小山市城東で診療を行う動物病院

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「最近、愛猫のお腹にしこりのようなものを見つけた」「何となく元気がない気がするけれど、年齢のせい?」そんな風に感じたことはありませんか?それはもしかしたら、乳腺腫瘍を起こしている可能性があります。

猫の乳腺腫瘍は、特にシニア猫で多く見られ、その大半が悪性という非常に注意が必要な病気です。進行が早く転移のリスクも高いため、早期の発見と治療が予後を大きく左右します。

今回は猫の乳腺腫瘍について、特徴や症状、診断・治療方法、そして避妊手術による予防効果などをご紹介します。



■目次
1.乳腺腫瘍の基本知識
2.乳腺腫瘍の発生率
3.症状と行動変化
4.診断方法
5.治療方法
6.予後とケア方法
7.予防法と注意点
8.よくある質問
9.まとめ


乳腺腫瘍の基本知識

猫の乳腺腫瘍は、乳がんの一種であり、非常に悪性度が高いことで知られています。実際に猫の乳腺腫瘍のうち、およそ85〜90%が悪性であると報告されており、非常に進行が早いです。

また、肺やリンパ節などの他の臓器へ転移するリスクも高く、発見が遅れると命に関わることもあります。



乳腺腫瘍の発生率

乳腺腫瘍はシニア期の猫に多く見られますが、若齢でも発症する例があります。また、猫種によっても差があり、特にシャムは乳腺腫瘍の発症率が高いとされています。

特に避妊をしていない猫では、避妊済みの猫に比べて乳腺腫瘍の発生率が約7倍も高いというデータがあります。一方、生後6か月までに避妊手術を受けた場合には、乳腺腫瘍の発生リスクを約91%も減少できるため、若いうちに避妊手術を受けておくことが大切です。



症状と行動変化

猫は、痛みや不調を隠す習性があります。そのため、乳腺腫瘍の初期には明らかな症状が現れにくく、飼い主様が気づいた時にはすでに進行しているというケースも珍しくありません。

乳腺腫瘍の初期症状としては、乳腺部に小さなしこりが触れる程度です。このしこりは硬く、皮膚の下で動きにくいのが特徴です。進行すると、以下のような症状が見られます。


・しこりが徐々に大きくなる
・皮膚が赤くなる
・潰瘍化して出血する


また、身体的な症状に加えて、以下のような行動面にも変化が見られることがあります。


・普段よりも隠れる時間が増えた
・グルーミングを過剰に行うようになった
・食欲が落ちた
・抱っこを嫌がるようになった
・乳腺部を触ると嫌がる


このような小さな変化も見逃さず、気づいた時点で動物病院を受診することが、早期治療につながります。



診断方法

乳腺腫瘍が疑われる場合、動物病院では以下のような手順で診断を進めます。


①視診・触診
腫瘍の位置や大きさ、形、数、皮膚との癒着の有無などを確認します。見た目や触った感触から、悪性の疑いがあるかどうかを判断します。


②細胞診
細い針を使ってしこりの細胞を採取する「細胞診」を行い、良性か悪性かの初期判断をします。ただし、細胞診だけでは確定診断が難しい場合もあります。


③画像診断(X線検査・超音波検査)
腫瘍の広がりや、肺やリンパ節などへの転移の有無を調べます。特に悪性腫瘍は肺への転移が多いため、レントゲン検査は必須です。


④病理組織検査
腫瘍を外科的に摘出した後、その組織を専門の検査機関で詳しく調べます。腫瘍の種類や悪性度、転移の可能性などを正確に把握できる最も信頼性の高い検査です。


また、診断にあたっては、腫瘍そのものの性質だけでなく、猫の全身状態も総合的に評価することが大切です。特にシニア猫では、腎臓や肝臓などの内臓機能にも影響が出ていることがあるため、これらの状態を把握したうえで、無理のない治療計画を立てる必要があります。



治療方法

乳腺腫瘍の治療の基本は外科手術です。腫瘍が小さく、単独で存在している場合は、しこりのみの切除で済むことがあります。一方で、複数の乳腺に腫瘍がある場合や、悪性腫瘍の可能性が高い場合には、片側の乳腺全体、場合によっては両側の乳腺を切除する必要があります。

また、補助療法として、抗がん剤が用いられる場合もあります。特に「ドキソルビシン」などの薬剤は、術後の生存期間を延ばす効果が報告されています。ただし、猫は薬の副作用に敏感なため、慎重な判断と管理が求められます。



予後とケア方法

予後については、以下のように腫瘍の大きさや転移の有無によって異なります。


腫瘍が2cm未満の場合:生存期間は約2年と比較的良好な予後が期待されます。
腫瘍が3cm以上、または転移がある場合:生存期間は数か月と短くなることが多いです。


<術後のケア方法>
手術後の回復をスムーズに進めるためには、以下のようなポイントに注意してケアを行うことが大切です。


・傷の感染予防
・痛みの管理
・ストレス軽減


ほかにも、再発や転移の有無を確認するためにも、定期的な通院が欠かせません。



予防法と注意点

前述したとおり、乳腺腫瘍の最も効果的な予防策は、生後6か月未満の時期に避妊手術を行うことです。1歳以降、特に高齢になってからの避妊手術では、予防効果はあまり見込めないため、避妊手術のタイミングは非常に重要です。

また、シニア猫においては、定期的な健康診断も欠かせません。半年に一回は血液検査や画像診断を受け、健康状態をチェックしましょう。特に乳腺部の触診は飼い主様がご自宅でできる予防的ケアのひとつです。最低でも月に1回ほど、お腹や脇の下を優しく撫でて、しこりがないか確認する習慣を持ちましょう。

加えて、以下のような点にも日常的に注意を払ってください。


・食欲や体重の変化
・排泄の状態
・行動の変化(動きが鈍い、寝てばかりなど)


こうした小さな変化も、病気の初期サインである可能性があります。


犬と猫の健康診断について|受けるタイミングや診断方法の詳細はこちらから



よくある質問

Q:オス猫でも乳腺腫瘍になりますか?発生率はどのくらいですか?
A:はい、オス猫でも乳腺腫瘍は発生しますが、その頻度は非常にまれです。乳腺腫瘍は主にホルモンの影響を強く受けるため、圧倒的にメス猫での発症が多く見られます。


Q:猫の避妊手術のベストなタイミングと乳腺腫瘍予防の関係は?
A:最も効果的なのは、初回発情が来る前、つまり生後6か月未満の時期に避妊手術を行うことです。このタイミングで手術を行えば、乳腺腫瘍の発症リスクをおよそ91%も減らすことができます。1歳を過ぎてからでは予防効果が大きく下がるため、できる限り若いうちに避妊手術を行うことが望ましいです。



まとめ

猫の乳腺腫瘍は、非常に悪性度が高く、転移のリスクも高い病気です。しかし、早期に発見し適切な治療を行うことで、生存期間を延ばし、生活の質を維持できます。

最も有効な予防法は、若いうちの避妊手術です。生後6か月未満での手術によって、将来的な乳腺腫瘍のリスクを大きく減らすことができます。また、日頃からスキンシップと定期的な健診を通じて、病気の早期発見を心がけましょう。

当院では、猫の避妊手術や乳腺腫瘍の診療に多数の実績があります。不安な点やご質問がありましたら、どんな小さなことでもお気軽にご相談ください。飼い主様の気づきが、愛猫の健康を守る一番の鍵となります。


<参考文献>
1 MacEwen EG, Hayes AA, Harvey HJ, Patnaik AK, Mooney S, Passe S. Prognostic factors for feline mammary tumors. J Am Vet Med Assoc. 1984 Jul 15;185(2):201-4.
2 Association between Ovarihysterectomy and Feline Mammary Carcinoma – Overley – 2005 – Journal of Veterinary Internal Medicine – Wiley Online Library


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