2026/08/31
「食事はよく食べているのに、体重が減ってきた」「以前より水を飲む量が増えた」と感じていませんか。
シニア期の猫がよく食べるのに痩せる場合、加齢による変化だけでなく、甲状腺機能亢進症という病気が関係している可能性があります。甲状腺機能亢進症は、高齢の猫に多くみられる内分泌疾患です。
また、甲状腺機能亢進症の猫では、慢性腎臓病が隠れている場合もあります。甲状腺の治療を始めたあとに腎臓の数値が上がり、初めて腎機能の低下に気づくケースも少なくありません。
今回は、猫の甲状腺機能亢進症の症状や検査、治療法に加え、腎臓病との関係について解説します。
■目次
1.甲状腺機能亢進症とは?
2.「よく食べるのに痩せる」以外にみられる症状
3.甲状腺機能亢進症の検査
4.甲状腺の治療で隠れていた腎臓病が表面化する理由
5.甲状腺と腎臓の状態を見ながら選ぶ治療法
6.まとめ
甲状腺機能亢進症とは?
甲状腺は、猫の首の左右にある小さな器官です。甲状腺ホルモンを分泌し、全身の代謝や体温、心拍数などを調節しています。
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。多くは甲状腺組織の良性の変化によって起こりますが、まれに悪性腫瘍が関係している場合もあります。
甲状腺ホルモンが増えると、体の代謝が必要以上に活発になります。そのため、食事を十分にとっていてもエネルギーの消費が追いつかず、少しずつ痩せていきます。
高齢の猫で発症しやすく、初期には元気や食欲があるように見えるため、病気に気づきにくい点にも注意が必要です。
「よく食べるのに痩せる」以外にみられる症状
甲状腺機能亢進症の代表的な症状は、食欲があるにもかかわらず体重が減ることです。しかし、病気の影響は全身に及ぶため、次のような変化が表れる場合もあります。
・水を飲む量や尿の量が増える(多飲多尿)
・落ち着きがなくなり、活発に動き回る
・以前より大きな声で鳴く
・嘔吐や下痢がみられる
・毛並みが悪くなる
・心拍数が増える
・食欲が増す、または病状の進行に伴って食欲が低下する
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「高齢なのに以前より元気になった」と感じる変化も、甲状腺ホルモンの影響による可能性があります。また、心臓への負担や高血圧につながることもあるため、見た目の元気さだけでは判断できません。
多飲多尿や体重減少は、慢性腎臓病や糖尿病などでもみられる症状です。原因を調べるためには、動物病院での検査が必要です。
甲状腺機能亢進症の検査
甲状腺機能亢進症が疑われる場合は、身体検査や血液検査などを組み合わせて診断します。
身体検査では、体重や筋肉量、心拍数などを確認し、首を触って甲状腺が大きくなっていないかを調べます。あわせて血圧を測定する場合もあります。
血液検査では、主に甲状腺ホルモンのひとつである「T4(総サイロキシン)」を測定します。ただし、発症初期やほかの病気を併発している猫では、T4が基準範囲内になることもあります。その場合は、期間を空けて再検査を行ったり、ほかの甲状腺ホルモンの検査を追加したりして、総合的に判断します。
さらに、腎臓や肝臓などの状態を調べる血液検査や尿検査も重要です。必要に応じて、胸部のレントゲン検査や心臓・腹部の超音波検査などを行い、全身への影響や併発疾患を確認します。
甲状腺の治療で隠れていた腎臓病が表面化する理由
甲状腺機能亢進症の猫では、過剰な甲状腺ホルモンの影響によって心拍数や血流量が増え、腎臓を流れる血液の量も多くなります。そのため、実際には腎機能が低下していても、血液検査上の腎臓の数値が目立たない場合があります。
甲状腺の治療によってホルモンの状態が落ち着くと、過剰に増えていた腎臓への血流も変化します。その結果、これまで隠れていた慢性腎臓病が検査値に表れてくることがあります。
これは、甲状腺の治療によって新たに腎臓病になったとは限りません。もともと存在していた腎機能の低下が、甲状腺機能の改善に伴って把握しやすくなった可能性があります。
一方で、腎臓への影響を心配して甲状腺機能亢進症を治療せずにいると、心臓や血圧などに負担がかかるおそれがあります。そのため、甲状腺と腎臓のどちらか一方だけを見るのではなく、両方の状態を確認しながら治療を進めることが大切です。
甲状腺と腎臓の状態を見ながら選ぶ治療法
猫の甲状腺機能亢進症には、主に内服薬、食事療法、外科手術、放射性ヨウ素治療などの選択肢があります。それぞれの特徴を踏まえ、猫の年齢や全身状態、腎機能などに合わせて治療法を検討します。
<内服薬>
甲状腺ホルモンの合成を抑える薬を使用します。投薬量を調整しやすいため、治療後に甲状腺ホルモンや腎臓の数値がどのように変化するかを確認しながら進められます。
一方、継続的な投薬が必要です。また、猫によっては食欲低下や嘔吐、皮膚症状などが表れる場合があります。
<食事療法>
ヨウ素の量を調整した療法食を使用し、甲状腺ホルモンの産生を抑える方法です。
ほかの食事やおやつを口にすると治療に影響する可能性があるため、基本的には指定された療法食のみを与える必要があります。多頭飼育の場合は、ほかの猫の食事を食べないように管理することも大切です。
<外科手術>
異常のある甲状腺を外科的に切除する方法です。継続的な投薬が難しい場合などに検討されることがあります。
ただし、手術には全身麻酔が必要です。そのため、高齢の猫では心臓や腎臓を含む全身状態を確認したうえで、手術が可能かどうかを慎重に判断します。
<放射性ヨウ素治療>
放射性ヨウ素を投与し、異常な甲状腺組織に作用させる治療法です。実施できる施設が限られており、治療後には一定期間の入院や生活上の管理が必要となる場合があります。
治療を受けられる施設や猫の全身状態、腎機能などを踏まえて検討します。
<治療開始後の経過観察>
治療を始めたあとは、甲状腺ホルモンだけでなく、体重、食欲、飲水量、尿量、血圧、腎臓の数値なども定期的に確認します。
隠れていた腎臓病が表面化した場合は、甲状腺の治療内容を調整しながら、腎臓病に対する食事管理や投薬、点滴などを状態に応じて組み合わせます。
甲状腺と腎臓の両方を継続して確認することが大切です。
まとめ
シニア期の猫がよく食べるのに痩せる場合は、甲状腺機能亢進症の可能性があります。食欲があるため様子を見たくなるかもしれませんが、病気が進行すると心臓や血圧などにも影響を及ぼすことがあります。
また、甲状腺機能亢進症と慢性腎臓病が併存している猫では、治療後に隠れていた腎機能の低下が表面化する場合があります。そのため、治療前だけでなく、治療開始後も甲状腺と腎臓の状態を継続して確認することが重要です。
当院では、甲状腺ホルモンの数値だけで判断せず、腎機能や血圧、体重、日常の様子なども確認しながら、それぞれの猫に合わせた治療方針をご提案しています。
「最近痩せてきた」「水を飲む量や尿の量が増えた」と感じた際は、お気軽に当院までご相談ください。
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